競走馬には非常に格好いいものから、ちょっと笑えるものまで様々な馬名がついています。
しかし、馬名はどんなものでも良いというわけではありません。競走馬につける馬名にはルールが定められており、審査を通過したものでなければつけることができないのです。
ここでは、馬名に関するルールについて紹介します。
馬名には審査がある
馬名を登録する場合は、公益財団法人ジャパン・スタッドブック・インターナショナルに申請して審査を受けなければなりません。
馬名を登録する際は、所有者の情報や競走馬の情報などの必要事項を記載した登録申込書を提出します。馬名は第3希望まで記載することができます。希望する馬名の片仮名表記とアルファベット表記、意味、由来を記載します。
書類を提出して、希望馬名が審査を通過すれば正式に馬名として「馬名登録原簿」に登録されます。希望馬名が審査を通過できなかった場合は、意味を損なわない範囲で読み替えたり、全く別の名前を新たに申請したりします。
馬名は、競走馬登録前であれば何度でも変更できます。競走馬登録後は、初出走前であれば1回に限り変更ができます。初出走が終われば、いかなる理由があろうとも変更は認められません。
馬名に関するルール
非常に多彩な競走馬の馬名ですが、実はルールが設けられています。片仮名を使用することや文字数の制限などです。また、馬名として使用できないものもあります。
文字は片仮名のみ
馬名に使用できる文字は片仮名のみです。馬名は片仮名のみの使用と定められたのは1928年のことであり、それ以前には漢字の馬名も存在しました。
○馬名は現代仮名遣い
馬名は現代仮名遣い限ると定められているため、「ヰ」や「ヱ」などの文字は使用できません。「ヲ」については、1997年より使用が認められています。
○長音は使用可
長音「―」の使用は認められており、1文字としてカウントされます。
○「ハ」と「ヘ」は二通りの読み方
「ハ」は「ハ」と「ワ」、「ヘ」は「ヘ」と「エ」の二通りの発音が認められています。
○「ヴ」は場合によっては使用可
「ヴ」については、外来語として原音の意識が残っているものについてのみ使用ができます。「ヴ」と「ブ」は同音として扱われます。また、「ヴァ」と「バ」、「ヴィ」と「ビ」、「ヴェ」と「ベ」、「ヴォ」と「ボ」、「ヴュ」と「ビュ」も同音として扱われます。
文字数は9文字以内
馬名に使用される文字数は、アルファベット18文字(空白を含む)以内、かつ片仮名2文字以上9文字以内と定められています。以前は1文字の馬名も認められていたので、戦前には「ヤ」という馬名の競走馬も存在しましたが、現在は1文字の馬名をつけることはできません。
アルファベット表記が必要な理由は、海外のレースに出走することを考慮しているためです。
文字数が限られているため、苦肉の策で一部を割愛した馬名を登録した例もあります。この場合は、「カツラノハイセイコ(ー)」や「オウケンブルースリ(ー)」のように長音が省略されることが多いようです。
使用できない馬名
馬名では、審査基準として登録できないものが定められています。その中でも代表的なものを紹介します。ただし、これらに該当するものでも、基準を満たせば新たな馬名として使用することができます。
同じ名前や紛らわしい名前はつけられない
以下のような馬名と同じ名前や紛らわしい名前をつけることはできません。
・馬名登録原簿に記載されている馬名
・日本中央競馬会の馬名登録、地方競馬全国協会の馬登録もしくは繁殖登録を受けた馬名
・持込馬の父馬の馬名、輸入馬のうち血統登録を受けたものの父馬・母馬の馬名
・父馬・母馬の馬名
・サラブレッド造成から今日まで功績を残した著名な馬の馬名
・国際保護馬名
・外国の重要な競走の勝馬の馬名
・我が国の競走馬の系統上、特に有名な種雄馬及び種雌馬の馬名
・GI競走、・J・GI競走・JpnI競走の勝馬の馬名
奇きょうな馬名はつけられない
以下のような変わった馬名はつけることができません。
・馬名としてふさわしくない馬名
・著名な人物等の名称と同じ馬名
・公序良俗に反する馬名又は侮辱的とみなすことのできる馬名
・言葉の意味と性別が異なる馬名
・馬及び競馬等に関する用語
・アルファベット又は数字を片仮名で表記しただけの馬名
再使用できる馬名
審査基準で使用できないと定められている馬名であっても、対象馬が登録抹消したり死亡したりしてから一定年数が経過すれば再使用できる場合があります。
三冠馬ミスターシービーは実は2代目です。またG17勝の牝馬ウオッカにも先代がいます。ちなみに、G1や主要国際競争の優勝馬の馬名の再使用はできません。よって、2代目が活躍したために、ミスターシービーやウオッカの馬名が今後つけられることは決してないのです。
審査で認められた馬名と認められなかった馬名
馬名として申請されたものの中には、審査基準にやや触発しながらも審査を通過したものがあります。その中の例を紹介します。
認められた馬名
ホリエモン
堀江貴文氏が所有していた馬で、ライブドアサイト上での公募により馬名となりました。「ホリエモン」は堀江氏の通称であり、本来ならば「著名な人物等の名称と同じ馬名」ということになります。しかし、当時は世間にそこまで大きく認知されていなかったこともあり、馬名として認められました。
競走馬ホリエモンは中央競馬で未勝利に終わった後、高知競馬へ移籍して引退まで長く競走馬生活を送りました。
クラローレル
クラローレルは、北海道競馬の競走馬です。地方馬ながら、東京競馬場での勝利を挙げています。
GI2勝を挙げ1996年のJRA賞年度代表馬、最優秀5歳以上牡馬を受賞した名馬サクラローレルと1文字違いで、一瞬勘違いを起こしてしまう馬名です。これはGI優勝馬と「紛らわしい名前」ということになります。
しかし、クラローレルの「クラ」が馬主の冠名であったために許可が下りました。
認められなかった馬名
馬名として申請されたものの中には、残念ながら審査を通過できなかったものもあります。その中の例を紹介します。
モルフェーヴル
オルフェーヴル産駒の馬名が、「モルフェーヴル」として申請されましたが、これは父馬と「紛らわしい名前」ということになります。馬名が父馬の名前に酷似しており、さらに「オ」と「モ」は母音も同じであり区別がつきにくいことが理由に、許可が下りませんでした。
この馬は最終的には、冠名「モルフェ」+父の馬名で「モルフェオルフェ」と名付けられました。
ニバンテ
競走馬に珍馬名をつけることで知られる小田切有一氏所有の競走馬です。「ニバンテ」という馬名を申請したものの、これは「馬及び競馬等に関する用語」ということになります。結局は実況中継の際にややこしいことが理由として却下となりました。
他にも小田切氏は「ドウモスミマセン」という馬名をJRAに却下されて、「ギャフン」に改めたというエピソードを持っています。
まとめ
一見かなり自由につけられているかのような印象を受ける馬名ですが、実は細かいルールが設けられており、審査を通過したものだけが認められます。
そのため、基準ギリギリでつけられた面白い名前や残念ながらお蔵入りしてしまった名前も存在します。
出馬表を見る際には、馬名に注目してつけられた経緯などを想像してみると面白いものです。名づけに関する思わぬエピソードが見えてきます。
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